新しい犬との生活③

しばらくして、体調が落ち着いたマロは家に帰ってきました。

実家でゆっくりしていたのが身体に良かったのか、暑くなったり興奮したりすると多少はゼェゼェ言いますが、いつもどおり元気です。

マロは私に久しぶりに会えた喜びで、ぴょんぴょん跳ね回っていました。

その様子を見た瞬間、涙が出るほど嬉しかったのと同時に、とてつもない罪悪感が襲ってきました。

 

マロはずっと私のことだけを見ていてくれたのに、なんで私はマロを見ていなかったんだろう。

また私は同じ過ちを繰り返すところだった。

本当にごめんね。

 

それ以来、マロに空の面影を探すことは一切無くなりました。

「魔法の呪文」を唱えなくても、心の底から可愛いと思えるようになりました。

なぜこんなに極端に私の心情が変化したのかは、正直自分でも分かりません。

もしかしたら、「空と同じようにマロもいなくなってしまうのか」「また自分は同じことを繰り返すのか」という、あの押しつぶされそうなほどの巨大な恐怖が私を変えたのかもしれません。

 

とにかく、こうして私はマロをマロとして愛することができるようになりました。

私はもう大丈夫。きっと、これがペットロスを克服できたということなんだ。

 

 

そう思っていたある日、テレビを見ていて、飼い犬が死んでしまうシーンがでてきました。

飼い主の女性が犬を抱きしめて泣いています。

なんてことない、よくある場面です。

が、それを見た瞬間、息ができなくなりました。

言葉では説明できない感情が突然湧いてきて、テレビの中の女性よりももっと大きな声で私は号泣していました。

そのシーンが過ぎた後も、なかなか涙は止まりません。

なんだ、これ。

泣きながら、私自身が一番戸惑っていました。

確かに悲しいシーンではありましたが、私の反応は明らかに異常です。

 

なんでこんなに涙が出るんだろう?

まさか、まだペットロスから抜け出せていなかったのか?

マロの存在で、空の抜けた穴を埋められたものと思い込んでいたけど、それは違ったのか?

 

そんなバカな、と思いながら、試しに空の写真を改めて眺めてみました。

一瞬、空が死んだときのことが脳裏によぎりました。

すると、例のテレビのワンシーンを見たとき同様、胸が強く締め付けられる感じがし、涙が止まらなくなりました。

 

ああ、やっぱりダメなんだ。

新しい犬を飼っても、愛することができるようになっても、ここから抜け出せないんだ。

 

私は途方に暮れました。